香港ドルへの投資を考察

個別銘柄・通貨

最終更新日: 2020.11.19

香港ドルを考察する。歴史的な役割変化を迎えている香港。【2020年】

香港は「香港ドル」という自身の通貨を持っています。そして、その通貨は「ペッグ制」と呼ばれるのですが、別の通貨の価格変動と連動させられています。じゃ、どの通貨へ?という話になるのですが、香港は中国の一部なので、「香港ドルは中国元と連動?」というと全く違っていて、むしろ、中国と激しく政治闘争をしているアメリカドルへ固定化されています。現在考えると、一見矛盾の様な、この仕組みの歴史的な背景と、香港ドルへの投資について考察したいと思います。

香港がイギリス領土となる「前夜」1840年頃の世界

香港は、イギリスと中国の間で起きた1840年から1842年のアヘン戦争後に、香港島をイギリスへ譲渡。以降、イギリスは香港の領土を拡大し、1898年に最終的に、現在の「香港」の範囲がイギリスのものとなります。

当時のイギリスは、世界で最初に産業革命を成功させた後、海外貿易に進出し、1851年にはロンドンで世界初の万博を開催するなど、いけいけの時代でした。

当時の中国の貿易拠点は広州だったのですが、船で輸出品を運んでくるイギリスにとっては、広州に入る玄関口に位置する香港が都合良い場所でした。

なので、香港に対中国貿易の拠点をつくり、以降、貿易に絡んだ金融の発展につながっていきます。この歴史が、真に今の香港の基礎になりました。

鄧小平の登場が香港の中国返還へ結びつく

現在の中国、社会主義と言いながら、その実は超資本主義の、利益に貪欲な中国経済を作ったきっかけは、鄧小平(1904~97)でした。

鄧小平は1980年代に改革開放政策を主導し、中国の経済発展、ならびに現在の中国の資本主義文化の礎を築いた人物です。

鄧小平の有名な言葉「白い猫でも黒い猫でもネズミをとる猫がよい猫だ」は、要するに実を取れれば、方法は厭わない。

経済的に豊かになるならば、方法はいとわない、という非常に実用性を重視した考え方で、社会主義を唱えながら、経済面では資本主義である今の中国と重なります。

中国の経済的な外資導入を進めた鄧小平の頭の中には、香港の重要性をしっかり認識していたのと思われます。

香港の一部「新界」は中国からイギリスへの租借地だったのですが、この期間延長を望むイギリス サッチャー首相(当時)に対して、頑とした姿勢を取り、ついに1997年の香港全域の中国返還に結びつけます。

香港ドルの状況

香港は「香港ドル」という独自通貨を持っているのですが、それはアメリカドルに対して固定されています。

それを確認するために、一つグラフを描いてみたのですが、香港ドル円と、米ドル円の2つを重ね描きしたものです。

オレンジの線が米ドル/日本円、青色の線が香港ドル/日本円なのですが、ほとんど、ビタッと重なってます。つまり、香港ドルは、米ドルに、ほぼ一致していることが分かります。

中国発展のために香港ドルと米ドルへのペッグが重要な理由

中国の発展は、世界各国からの投資と貿易によってきっかけが作られてきました。例えば「世界の工場」と呼ばれるのがそれですし、香港には香港株式市場が作られていて、中国企業が株式を公開。海外資本が投資する場が作られているのもそれです。

その時、海外投資家の気持ちになってみるとどうでしょう。

もし、香港が無ければ、どうなるかというと、人民元を買って、中国本土に投資するしかありません。

投資には現地に工場等を建てて、経営権を握って運営することを目指した「直接投資」と呼ばれる分野と、株式の利益上昇や配当などを目論んで投資する金融投資の分野があります。

直接投資なら人民元を買ってやるしかないですが、人民元を買って、中国国内に入ると言うことは、全て中国の規制の下に置かれると言うことになります。

監視、規制や、官僚腐敗と言った世界とも付き合わなくてはなりません。

また、中国政府が中国元の持ち出し規制をした場合には、その対象にもなります。

巨額の資本を投資する資本家にしたら、とても怖い世界です。ルールが何時変わるか分からないし、不透明。持ち出せなくなるかもしれない。

そもそも、中国高官ですら、危険を感じ、海外へ資金逃避の準備をする様な中国元。

中国が幾ら成長率が高かろうと、投資したお金自体が引き出せなくなってしまっては、意味がありません。

一方、香港ドルは中国ルールとは全く別なオープンで国際様式のルール。通貨も、名前は香港ドルだけど、実質は米国ドルへ固定化された通貨。

世界の投資家にしてみると、安心感と機動性が全く違う訳です。また、中国側も、この点をよく理解していて、香港に起点を作り、中国本土へ投資した場合は税金面での優遇を儲けて、むしろ香港投資を促してきました。

中国本土の企業にしても、為替損失を心配しなくてよく、信頼の基盤が出来ている香港ドルを中心とした貿易は成長段階では都合が良かった訳です。

香港ドルニーズの高さ

過去実際、香港ドルのニーズがどれ程強かったのか見てみます。香港ドルは米国ドルに固定化※されているので、理屈的には香港の金利は米国金利と一致するはず。(※実際は、1米ドル=7.75~7.85の、僅か1%強の変動幅は許される)

米国ドルを中心に投資をしている投資家からすると、為替リスクが無いので、もしどちらかの金利が上がれば、そちらの通貨に移動させればいい訳です。

米国と香港の金利比較

市場金利、10年国債の両国の金利を、2000年以降ですがグラフにして見ました。

米国と香港の金利を比較してみると、意外にも差が大きく、2000年当初は香港の金利は米国よりも2%近くも高い時期がありました。

また、2004年以降から、つい直近までは逆に、香港金利はむしろ安い状態が続いていて、約1%位、香港金利の方が安い状況でした。

つまり、金利で約1%程のデメリットを余り補っても香港ドルを買って、中国関連の企業株などへ投資した方が、メリットがあったということになります。

ちなみに、ITバブル崩壊があったのが2001年。SARS(重症急性呼吸器症候群)の流行が香港を襲ったのが2003年です。

これらの危機を乗り切って、香港ドルは高いニーズを受けてきたのですが、2019年以降、金利差で見ると、香港ドルニーズは下降傾向にあり、直近では香港金利が米国金利を上回っています。

つまり、金利的メリットを付けないと、香港から資金が逃避し易い状況に変化してきている、ということです。

矛盾を抱えだした香港

外資の参入規制無く、法律が透明、米国ドルへのペッグ、法的な優遇。それでいて、中国への人的、距離的、制度的近さを確保。

香港は海外資本家にとって、特別な、魅力有る場所でした。

同じく、鄧小平の制作後、実質的には強烈な資本主義が進んだ中国国内の事業家にとっても、世界とつなぎ、資金調達、貿易の窓口として特別な位置付けなのが、香港でした。

ところが、
・中国の習近平国家主席が、進める香港の中国化
米国と中国の貿易戦争。覇権戦争。
・中国が経済発展し、香港なんて無くても・という中国本土に芽生えている自信。
香港ドルの制度的矛盾の拡大

これらが絡んで、香港と香港ドルの将来的な展望に不安が広がって来ています。

香港ドルのペッグ制とは?

香港ドルは米国ドルに対して固定化されています。実際、どんな通貨の動きをしているか、1990年以降の米ドル/香港ドルの価格推移をグラフにしてみました。

香港ドルの米ドルへのペッグの状況

香港ドルペッグ状況

管理されているのが如実に分かりますよね。

2000年~2003年に掛けては、1米ドル=7.8に完全固定されていましたし、2005年頃からは7.75をピタッと下限として、7.85迄の間から出ていません。

グラフだと「結構価格変動している」様に見えるかもしれませんが、7.85~7.75の変動幅は率に直すと、約1%だけです。

香港ドルの米ドルペッグの仕組み

仕組みはシンプルで、香港中央銀行が1米ドル=7.75香港ドルよりも、香港ドルが高くなりそうな時には、香港ドル売り、米ドル買いの介入を実施。

逆に、1米ドル=7.85香港ドルよりも、香港ドルが安くなりそうな時には、米ドル売り香港ドル買いの介入を実施します。

懸念点は、米ドルを十分に香港中央銀行が持っているかで、もし持っていないと、香港ドルが売られ出した時、米ドル売り香港ドル買いの介入が継続できません。

固定相場の崩しを狙った投機筋の売り合戦は、過去に何度かあって、「ポンドショック」しかり、2016年のスイスフラン売りとか、アジア通貨危機とか、割と狙われます。

ところが、香港ドルの場合、投機筋の売り崩しには強くて、「香港ドルの売り崩しに対して、支えられる分の通貨しか発行しない」という仕組みを取ってます。

つまり、米ドル保有量を基準に、通貨発行総量を限定してしまうということです。

香港ドル発行量と、外貨準備金の比較
香港金融管理局公表データから著者作成

実際を調べてみると、通貨発行量総額に対して、米ドル備蓄金高が40%程度は維持する様にコントロールされています。

日本や米国では、新型コロナショック等、危機が発生すると、紙幣を刷りまくり、金融緩和を進めているのですが、香港は、米ドルとのペッグという制約があるため、紙幣をむやみに刷れないという状況です。

香港ドルが米国ドルとペッグする矛盾

今まで見てきた様に、米国ドルとペッグする為、香港ドルは発行総額を制御したり、金利も、米国金利と大きな差を作ってしまうと、ペッグ制維持への圧力になるので、僅かな差に収まる様、コントロールしている状況でした。

そうなると、米国の経済状況と、香港の経済状況が凡そ一緒なら、同じ金利でも困りはしないのですが、両者の経済状況が乖離すると、かなり無理が生じてきます。

ところが、香港の経済は、貿易の輸出入相手は中国本土がほとんどだし、観光に香港を訪れる人も中国本土が8割。米国への依存は少ない。

香港の輸出入相手国

加えて、米国と中国は対立を深めており、南シナ海問題や、通信の5Gを巡って、米国は益々中国から距離を置き、締め出す構えです。

米国との中国との亀裂は深まる経済情勢にあって、香港の経済依存度は圧倒的に中国。だけれども、通貨の香港ドルは米国ドルとペッグし、結果として、金利は米国の経済状況に引きずられざる得ない。

香港ドルの今後に対しては、米国と中国の対立深化は、不安要因にしかならないと思います。

香港ドルペッグ制は崩壊するのか。見通し

米国と中国との亀裂。そして、中国政府の香港に対する「中国化」を早める動き、この2つから香港ドルの米ドルへのペッグ制は維持できないのではないか?という不安が出てきていますが、その点について、考察してみたいと思います。

投機筋による香港ドル切り崩しは可能か?

一点目が、アジア通貨危機や、ポンドショックの様に、巨大投機筋に依り、香港ドルが売り崩され、結果的に米国ドルへのペッグ制が維持できなくなるので無いか?という懸念についてです。

これに対しては、私は、無い、と考えます。

先ほど見た様に、香港ドルは発行総量が制限されてます。つまり、香港中央銀行が持つ為替介入用の米国ドル保有量を基準にして、売り崩しに耐えられる総量しか、香港ドルは発行されてません。

そして、保有する外貨準備金は48兆円弱。

これだけの売り崩しが出来る投機筋は無いですし、通貨発行量の内、市中に出回ってる25%程度で、75%は香港の銀行口座内。つまり、市中に出回ってる香港ドルを全て売り崩しても、まだ香港中央銀行は、対応余力十分にある状況。

これでは、投機筋に勝ち目は無いです。

政治面からの崩れはどうか

香港ドルのペッグ制が崩れるとしたら、こっちですね。こちらは、有りうると思います。

先ほどの香港ドル発行総量と、外貨準備金の比率を示したグラフを再掲します。これを見て貰うと分かりますが、外貨準備金は金額は大きいと言えども、通貨発行量の4割の規模にしか過ぎません

なので、もし香港の中国化が進み、香港の経済的制度の自由度が本当に失われる恐れが現実的になったり、香港の資産家の財産が中国制度の下に置かれる恐れが出てきた時、

おそらく、大量の香港資金が海外へ逃亡し出すと思います。

もし、その展開になった時、流出資産規模は、通貨発行総量の10%は超えて、20%、30%へと迫る展開になるかもしれません。

そうなると、投機筋は便乗して、さらに香港ドルの売り崩しを被せてくるでしょう。その時は、効きます。

香港ドルへの投資法を考察

香港ドルが維持している米ドルへのペッグ制の仕組みと、おかれた状況を鑑みて、香港ドルへの投資戦略を考えてみます。

売買単位の小さな米ドルとして捉える方法

一つ目は素直な方法で、香港ドルが米国ドルと連動すること。そして、1米ドルは7.75米ドル程度なので、つまり、米ドルの約1/8程度の価格。

投資という面からみると、米ドルと同じ性質のものが、1/8の金額単位から買える事になります。少額から投資したい時に、都合のいい「米ドル」と考える方法です。

香港ドルのペッグ制に乗る方法

二つ目は、以上見てきた様に、香港ドルのペッグ制は、政治的不安が起きた時以外は崩れそうにありません。

なので、もしペッグの下限や上限に来たら、その値段で買うという作戦です。

オレンジ色の所で買うイメージです。ちょうど、今はラインに乗ってるのですが、こういうタイミングを狙っていく作戦です。

香港ドルペッグ制制度変化、崩壊を狙う方法

最後は香港ドルのペッグ制が崩れる瞬間や、ペッグ制崩壊まで行かなくとも、変動幅を大きくするなどの制度変更が行われる時を狙う作戦です。

これは、政治的動向や経済情勢を読む必要がありますが、もし当たった時は一番大きい作戦です。

例えば、もし中国が香港の自由度を奪う方向に進むことが現実的に起きたとすると、大きく香港ドルは売られるでしょう。

香港ドルを買える場所

香港ドルを扱っている会社は少なくて、一つは「みんなのFX」です。ここは日本でメジャーで無い通貨を買おうとする時に、必ず出てくる会社です。

みんなのFX

もう一つは、Tポイントを高金利通貨に交換する用に、持っておくといい会社の「ネオモバ」ですが、ここでも香港ドルの扱いはありますね、

ネオモバ

最後、香港ドルのペッグ制崩れや、ペッグの端で買おうという時には、香港ドルと米ドルとの組み合わせが扱い易いですが、私が知ってる限り、扱いがあるのはオアンダジャパンだけです。

オアンダジャパン

ピックアップ記事

  1. 投資会社どこがいい?

関連記事

  1. スゥエーデン クローナ

    個別銘柄・通貨

    スウェーデン 通貨クローナ運用を考察する。分かり易いトレンド。【2020年版】

    今回は、北欧の成熟国スウェーデンを取り挙げたいと思います。高福祉や美…

  2. 個別銘柄・通貨

    トルコリラへの運用を考察。潜在力は高い。【2020年版】

    日本の個人に人気のトルコリラ。日本国内では、預金をしても金利がほとん…

  3. メキシコペソへの投資を考察する

    個別銘柄・通貨

    メキシコ通貨ペソの運用を考察。時期を選べば二度美味しい。【2020年版】

    新型コロナショックで大暴落したメキシコペソ。危ないとして敬遠が広がっ…

  4. 南アフリカランドへの投資を考察する

    個別銘柄・通貨

    南アフリカ通貨ランドの運用を考察。時期を選べば2度美味しい。【2020年版】

    高金利通貨として日本の個人投資家に大変に人気の高い南アフリカランド。…

  5. ポーランド通貨ズロチ

    個別銘柄・通貨

    ポーランド通貨ズロチ を考察する。東欧の高金利成長国。【2020年版】

    今回はポーランドの通貨ズロチについて取り挙げたいと思います。実はポー…

  6. スイス永世中立までの歴史と経済。スイスフラン

    個別銘柄・通貨

    スイス永世中立の歴史と安全資産スイスフランの特徴。

    永世中立国スイス。第1次世界大戦、第2次世界大戦、両方共に戦いの中心…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

最近の記事

  1. ジョゼ・モウリーニョ、もっと自分に要求しろ
  2. ググるより大切なこと
  3. スイス永世中立までの歴史と経済。スイスフラン
  4. 債券と金利 プロの見方が分かる
  5. 日本の財政破綻、ハイパーインフレの可能性

人気の記事

  1. ググるより大切なこと
  2. 日本の財政破綻、ハイパーインフレの可能性
  3. 希望を叶える魔法の杖
  4. 点と点は繋がる
  5. 投資会社どこがいい?
  1. ググるより大切なこと

    コラム

    情報の取り方、「上手にググる」よりもっと大切なこと
  2. 日本の財政破綻、ハイパーインフレの可能性

    お金の教室。地道に投資を学ぼう。

    財政破綻とハイパーインフレに日本はなるのか?戦前との比較から国債破綻を考察する。…
  3. 投資会社どこがいい?

    お金の知識

    投資会社どこがいい?
  4. 希望を叶える魔法の杖

    希望を叶える魔法の杖

    希望を叶える魔法の杖
  5. 点と点は繋がる

    希望を叶える魔法の杖

    今は分からないけど点は線になる
PAGE TOP